絵巻物(えまきもの)と装飾経(そうしょくきょう)をまとめていきましょう。

まずは絵巻物です。
絵巻物とは、絵と詞書(ことばがき)を交互にかいて、
人物の動きや時間の進行を表現する巻物です。
とくに院政期には、大和絵(やまとえ)の技法をもちいた立派な絵巻物がたくさんつくられます。
当時の貴族たちは、これをどんな風に楽しんだのでしょうね…

これから、院政期につくられた絵巻物の代表例を5つご紹介しましょう!
おもしろいものが多いので、ついついアツく語ってしまうと思いますが、何卒ご了承ください(笑)
①「源氏物語絵巻」(げんじものがたりえまき)
紫式部(むらさきしきぶ)の『源氏物語』(げんじものがたり)を題材とする絵巻物です。
絵の部分は、華やかで雅な貴族社会の様子を繊細に描いており、
作者は藤原隆能(ふじわらのたかよし)ではないかと言われていますが、確証はありません。
現在は断片的にしか残っておらず、
愛知県の徳川美術館(とくがわびじゅつかん)などが所蔵しています。
「源氏物語絵巻」に用いられているおもな技法は、次の2つです。
● 引目鉤鼻(ひきめかぎばな)
…大和絵で顔を描くときに用いられる技法
目は細い筆でスッと線を引いて描き、
鼻は同じく細い筆で鉤(かぎ)のような形(釣り針みたいな形のこと)に描くこと
● 吹抜屋台(ふきぬきやたい)
…建物の屋根と天井がないものとして、部屋の中を描く技法

↑ この場面は、最近めっきり見なくなった二千円札の裏面に用いられているのですが、
引目鉤鼻と吹抜屋台の技法がよく分かりますね!
* * *
②「伴大納言絵巻」(ばんだいなごんえまき)
866年に起きた応天門の変(おうてんもんのへん)を題材とする絵巻物で、
絵は常盤光長(ときわみつなが)が描いたとされています。
現在は、東京都の出光美術館(いでみつびじゅつかん)が所蔵しています。
ところで、応天門の変…
覚えていますか??
866年のある日、朝廷の門の1つである応天門(おうてんもん)が炎上。
大納言(だいなごん)の伴善男(とものよしお)の告発によって、
左大臣(さだいじん)の源信(みなもとのまこと)が容疑者として捕まるも、ほどなく釈放。
最終的には、伴善男が真犯人として捕まり流罪となった、という事件です。
ちなみに、「伴大納言絵巻」の伴大納言とは、大納言の伴善男を意味しています。
ここで、プリントにも載せた場面を見てください。

↑ 衣冠(いかん)姿の貴族や弓矢を携えた武士など、様々な人間が表情豊かに描かれています。
よく見ると、ほとんどが右の方を見てビックリしていますね。
そっちの方向にナニがあるのかというと…
そうです、燃えさかる応天門です!

↑ ちょっと想像以上の燃え方してるーーーッッ!!!(汗)
炎や黒煙の描き方がかなり写実的で、その恐ろしさが伝わってきます。
黒煙の流れ方を見ると、さきほどの群衆は風上にいることが分かります。

↑ 青丸のところを見てくださいよ!
風上だからって安心しているのでしょうか、
どさくさにまぎれてチカンをしようとしている男性が描かれております…(チカンアカン!)
絵巻物はこのあと、
源信の逮捕→源信の釈放→真犯人の発覚→伴善男の逮捕、と続いてゆきます。
それにしても、事件から300年もたった院政期に、
どうしてこんな立派な絵巻物が描かれたのでしょうか…
事件も絵巻物も謎だらけです。
* * *
③「信貴山縁起絵巻」(しぎさんえんぎえまき)
奈良県の信貴山(しぎさん)という山に、
朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)というお寺があります。
これは、朝護孫子寺の命蓮(みょうれん)というお坊さんが起こしたミラクルの数々を描いた絵巻物です。
・「山崎長者の巻」(やまざきちょうじゃのまき)
・「延喜加持の巻」(えんぎかじのまき)
・「尼公の巻」(あまぎみのまき)
というタイトルのついた3本の絵巻物で構成されているのですが、
なかでも有名なのが「山崎長者の巻」、通称「飛倉の巻」(とびくらのまき)です。
おもしろいので、簡単にストーリーをご紹介しましょう。
信貴山にこもる命蓮は、ふもとにある長者の家まで法力で鉢を飛ばし、
そこに食べ物などを載せてもらって修行に励んでいました。
ん?
ホーリキで??
ハチを飛ばす???
え?
なにそのミラクル…
ちょっと理解できないんだけど…
ですよね。
分かります。
分かりますけど、命蓮のミラクルはこんなもんじゃありませんので、
とりあえずこのまま続きを読んでください。
ある日、いつものように長者の家に命蓮の鉢が飛んできたのですが、
何度も何度も飛んでくる鉢をうとましく思った長者は、
鉢を米倉のなかに入れたまんまカギをかけてしまいます。
すると!
突然米倉がゴゴゴゴゴと地面から浮き上がったのです!!
そして!
米倉の扉がバーンと開き、なかから鉢が飛び出したのです!!
さらに次の瞬間!
鉢が浮き上がった米倉を載せて飛んでいってしまったのです!!
エエェェェーーーッッ!!!でしょ。
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↑ ホラ見てください、みんな表情豊かに「エエェェェーーーッッ!!!」って驚いてます。
果たして米倉はどこへ飛んでいってしまったのでしょう…
命蓮のミラクルは、まだまだ続きます。
長者たちが空飛ぶ米倉のあとを追ったところ、たどり着いたのは信貴山でした。
米倉は、命蓮の庵(いおり)のそばにドスンと落ちていたのです。
長者は「米倉を返してください…」と命蓮に訴えます。
すると命蓮は、
「せっかく飛んできた米倉はここで使わせてもらいたい。中身だけ返しましょう」
と答えます。
米倉返さへんのかいっ!!という突っ込みはさておき、
とりあえず長者は、米倉の中にある大量の米俵は返してもらえることになりました。
とはいえ、米俵ってめちゃくちゃ重たいんですよ。
とてもじゃないけど長者の家まで運べそうにありません。
困り果てている長者を見かねた命蓮は、米俵を1つだけ鉢の上に置くよう命じます。
すると!
米俵を乗せた鉢がフヨフヨと浮き、長者の家の方へと飛んでいったのです!!
さらに!
残りの米俵もフヨフヨと浮き、先頭の鉢を追って次々と飛んでいったのです!!
そして!
米俵は、米倉のあった場所にドサドサドサッッと返ってきたのです!!
超ミラクル~!!!!

↑ 米俵が空から降ってきたときの、長者の家にいる人たちの顔を見てくださいよ!
もうみんな「ウギャーーーーーッッ!!」って表情です!!
そりゃそーだよ、ビックリするよ!!!
以上、長くなりましたが「山崎長者の巻(飛倉の巻)」はこんなお話です。
とにもかくにも、米俵が戻ってきてめでたしめでたしです(あれ?米倉は??)。
プリントには、「延喜加持の巻」の一場面も載せています。
延喜といえば…?
そうです、延喜の治(えんぎのち)です。
誰がおこなったか覚えていますか?
そうです、醍醐天皇(だいごてんのう)です。
忘れたなー!って人は、902年のゴロ合わせを復習してくださいね。
せっかくなので、「延喜加持の巻」も簡単にストーリーを紹介しておきましょう。
あるとき、醍醐天皇が重い病気にかかってしまいます。
命蓮のミラクルを耳にした醍醐天皇の側近は、信貴山にいる命蓮に加持祈禱(かじきとう)を依頼します。
ところが、命蓮は都には行かず、ここ、つまり信貴山で加持祈禱をおこなうと主張します。
基本、命蓮は信貴山から動かないのです。
「私の加持祈禱によって醍醐天皇の病気が癒えたときは、
剣の鎧(よろい)を着た護法童子(ごほうどうじ)を遣わしましょう」と言う命蓮。
それから3日後、醍醐天皇のもとにやってきたのは…

↑ 剣の鎧をなびかせながら、
霊力を秘めた輪宝(りんぽう)をサッカーボールのように転がしながら疾走する護法童子です。
ワタシ的には髪の毛の散らかり具合がツボです。
右から左に見ていく絵巻物のなかを、
左から右へビューーーンと飛んでくる護法童子のスピード感が素晴らしいです。
輪宝の回転と、護法童子の速さをあらわす線の表現なんて、まるで現代のマンガですよ。
この輝く護法童子の姿を夢に見た醍醐天皇は、たちまち元気になったといいます。
命蓮、すごいよね!!!!
* * *
④「鳥獣戯画」(ちょうじゅうぎが)
これは超有名ですね~。
カワイイ動物たちが登場する、とってもコミカルな絵巻物です。
4本の絵巻物で構成されていて、なかには人間が登場するものもあるので、
「鳥獣人物戯画」(ちょうじゅうじんぶつぎが)と呼ぶこともあります。
所蔵しているのは、京都府の高山寺(こうざんじ)です。
なかでも有名なのは、このシーンでしょう!

↑ ウサギとカエルが相撲をとっています。
まずは右側。
2匹のウサギが応援するなか、ウサギとカエルが組み合っています。
なんとカエルがウサギの耳をかんでおります!
それ反則じゃないのか!!
そして左側。
ウサギを投げ飛ばすカエル!
勝者であるカエルの口からは、まるで「おりゃーっ!!」という声が出ているかのようです。
観客のカエル3匹は、仲間の勝利に大喜びです。
いやー、楽しそうでいいですね。
なんてったって、みんなカワイイです。
ちなみに、平安時代(9)にも書きましたが、相撲は宮中における年中行事の1つです。
貴族社会をまねているのでしょうか、
「鳥獣戯画」には、ほかにも年中行事に興じる動物たちの様子が描かれています。
次のシーンは、プリントに載せた部分です。

↑ サルのお坊さんが、カエルの仏様の前でなにやらお経を読んでいます。
その奥では、嘆き悲しむキツネやサルの姿が見て取れます。
ワタシ的には、烏帽子を(えぼし)をかぶってタレ耳になっているウサギがたまりません。
これに続くのは、こんなシーンです。

↑ 読経を終えたサルのお坊さんのもとに、お礼の品々がどんどん運ばれます。
それを見てニンマリするサルのお坊さん。
このシーンは、仏教界を風刺しているものと考えられます。
作者は、ながらく鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)だとされてきましたが確証はなく、
おそらく複数の人間によって描かれたものだと考えられています。
ちなみに、「鳥獣戯画」には詞書の部分はありません(当初はあったのかもしれませんが…)。
* * *
⑤「年中行事絵巻」(ねんちゅうぎょうじえまき)
後白河上皇(ごしらかわじょうこう)の命令によってつくられた、宮中の年中行事を記録した絵巻物です。
残念ながら、江戸時代のはじめに火災によって焼失してしまい、
現在は焼失前に描かれたとされる模写がいくつか残っているのみです。
次に装飾経を2点、ご紹介しておきましょう。
装飾経とは、美しくデコられた写経のことです。
①「扇面古写経」(せんめんこしゃきょう)
または「扇面法華経冊子」(せんめんほけきょうさっし)
扇面(せんめん、扇形の紙のこと)に大和絵で下絵を描き、
その上に法華経などを書きうつした装飾経です。
プリントに載っているのは、大阪府の四天王寺(してんのうじ)が所蔵するもので、
お経の下絵として、女房装束(にょうぼうしょうぞく)を身にまとった女性と、
衣冠姿で笛を手にしている男性の姿が描かれています。
このような「ザ・貴族」な下絵だけでなく、庶民の生活をイキイキと描いたものもあります。
* * *
②平家納経(へいけのうきょう)
平清盛(たいらのきよもり)らが、平氏一門の繁栄を祈願するため、
広島県の厳島神社(いつくしまじんじゃ)に奉納した装飾経です。
金ピカピンでとにかくゴージャス!
平氏のセレブぶりがよく伝わってきます。
ちなみに、平清盛自筆の部分もあります。
最後に解答を載せておきましょう。

絵巻物5点と装飾経2点だけなのに、アツく語りすぎてしまいました…すいません。
プリントの空欄部分を中心に覚えてくださいね(汗)
次回から、ゴロ合わせをお届けします。

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画像出典
wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/源氏物語絵巻
https://ja.wikipedia.org/wiki/伴大納言絵詞
https://ja.wikipedia.org/wiki/信貴山縁起
https://ja.wikipedia.org/wiki/鳥獣人物戯画
https://ja.wikipedia.org/wiki/扇面法華経冊子
広島県教育委員会HP https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/bunkazai/bunkazai-data-101020010.html
この記事へのコメント
かにかに
春之助
嬉しいコメント、ありがとうございます!
テスト、頑張ってくださいね!応援しています!!
ジェス
春之助
嬉しいコメント、ありがとうございます!
次回は以仁王の挙兵をゴロ合わせと共にお届けする予定です。
ややこしい部分なので、書き上げるまでにちょっと時間がかかるかもしれませんが…いましばらくお待ちください☆